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大分地方裁判所 昭和23年(行)17号 判決

原告

〓司義人

被告

大分縣農地委員会

主文

本件訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

原告が大分縣東國東郡上國崎村農地委員会の農地買收計画についてした訴願に対し、被告が昭和二十三年三月二十九日行つた裁決はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は、請求の原因として、原告は大分縣東國東郡上國崎村大字下成佛字在家六百七十五番田五畝二十一歩ほか同村内十七筆の田畑を所有していたところ、昭和二十二年十二月二十九日同縣同郡上國崎村農地委員会は原告を所謂不在地主と認め、自作農創設特別措置法第三條第一項第一号に基いて原告所有の右田畑合計十八筆の買收計画を決定した。これに対し原告から昭和二十三年一月七日異議を申立てた結果同農地委員会は同年同月二十九日右田畑のうち七筆については異議を理由ありとし、これを買收計画から除いたが、別紙目録記載の十一筆農地については異議を理由なしと決定した。そこで原告は昭和二十三年二月三日更に被告大分縣農地委員会に訴願したところ、被告は同年三月二十九日に至つて、原告は昭和二十年十一月二十三日当時に於て所謂不在地主であり且つ自作の意思及び能力を有しないことを理由として、上國崎農地委員会の前記農地十一筆買收の計画は正当で原告の訴願は理由がないと裁決し、右裁決の告知は同年四月中旬原告に到達した。併しながら、自作農創設特別措置法は昭和二十一年十月二十一日公布され、同年十二月二十九日施行されたものであつて、原告はそれ以前である昭和二十一年九月既に前記上國崎村に帰村して住んでいるのであるから、單に昭和二十年十一月二十三日不在であつた事を以て前記田畑を買收の対象とするのは不当であり、又原告は事実畑九畝を自作して居り、將來家族人数の增加及び農具整備の曉には耕作能力が更に增大する見込があるし、將來小作料の昻騰があれば右田畑から相当の收入も擧げられる訳であつて、それまでの間自作する能力も意思もある。

從つて被告の裁決理由は当を得ないばかりでなく、尚同法改正法によれば昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基いて買收計画をたてることは小作人の請求あるときに限り、而もこの小作人は信義に反する行爲のない者であることを要することになつているが、本件田畑の小作人等は同日現在小作料の支払を怠つて居り納税義務を履行しないのと同樣信義に反した行爲があるから、たとえ同人等の請求があつても昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基く買收は許されない筈である。以上の次第であるから被告のした前記裁決を普通農家の小作地保有可能面積の限度で取消を求めるため本訴に及んだと陳述し、被告の本案前の抗弁に対し、本件訴の提起期間は前記買收計画に基づく買收令書の交付を受けたときから一個月と解釈すべきものであるが、原告はまだ右買收令書の交付を受けて居らないので本訴は適法であると答え、尚本訴の提起が今日に及んだのは弁護士に訴訟代理を依賴している間に時日を経たのであつて、それ以外の理由はない旨釈明した。

被告訴訟代理人は本案前、主文の通りの判決を求め、本案前の答弁として本件農地十一筆について大分縣東國東郡上國崎村農地委員会が昭和二十年十一月二十三日に遡及して買收計画をたてたところ原告から異議申立があり、同委員会において昭和二十三年一月二十九日異議申立を認めない決定をしたこと、原告はこれに対し同年二月九日更に被告に訴願し、被告が同年三月二十九日原告主張のような裁決をしたことはこれを認める。併しながら右裁決は当時直ちに原告に告知せられたから、以後自作農創設特別措置法第四十七條ノ二に定められた期間内でなくては訴を提起することができないのに拘らず、本件訴は右期間後提起せられたものであつて不適法であると述べ、本案については「原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その答弁として、本件農地について前記上國崎村農地委員会が昭和二十年十一月二十三日に遡及して買收計画をたてたのは原告が昭和二十一年九月十八日以降本件農地所在地である上國崎村に復帰居住しているが、それまでは所謂不在地主であつたからである。而して原告の右復帰がたとえ自作農創設特別措置法施行前であつても昭和二十年(昭和二十三年とあるは誤記と認める)十一月二十三日現在において小作地につき耕作の業務を営んでいた小作農が同日現在の事実に基づき買收計画を定めることを請求したときは農地委員会は同日現在の事実に基づきこれを定めなければならないのであつて前記上國崎村のたてた買收計画は適法である。次に原告は多年在村していなかつた関係上右小作農等に多少原告主張のように小作料の滞納があつたかもしれないが、その後既に原告委任の管理人において受領して居り未納分はないから小作農の買收請求が信義に反するという原告の主張は理由がない。更に原告は医師であつて、多年官途につき既に六十一才の老人であるばかりでなく、農業の経驗は全くなく、家族として三十才の長女があるがこれも病弱で農業に從事することはできない。而して原告は前記のように帰村後小作に出していた畑一反四畝歩の返還をうけて耕作しているが、殆んど雇人の耕作に賴つて居り、農業施設の見るべきものもなく、農器具は鍬鎌各一丁程度で肥桶すらない状況である。これ等の事実から見て原告には將來自作農としてやつて行く能力も意思も認められないのであつて、その企図するところは單に小作地の保有にすぎないこと原告の主張自体から明かな通りである。從つて前記買收計画は適正なものであり、被告の行つた本件裁決も亦適法であると述べた。

理由

先づ被告の本案前の抗弁について判断すると本件訴は原告所有の別紙目録記載の農地について訴外大分縣東國東郡上國崎村農地委員会が自作農創設特別措置法第三條第一項第一号に基づいてたてた買收計画に関し、原告から同委員会に対する異議申立を経た上被告に申立てた訴願に対し、昭和二十三年三月二十九日被告がした裁決の取消を求める訴であることは原告の主張自体によつて明白である。

從つて自作農創設特別措置法第四十七條ノ二第一項の適用によつて日本國憲法の施行に伴う民事訴訟法の應急的措置に関する法律第八條の規定に拘らず裁決のあつたことを知つた日から一個月、裁決の日から二個月を経過したときはもはや司法裁判所に提起することができないものと謂はねばならない。尤も本訴提起のあつた日であること当裁判所に職務上顯著な昭和二十三年九月二十八日以前即ち同年七月十五日に行政事件訴訟特例法の施行があり、同法第五條第一項及第三項には行政処分取消の訴訟は目的たる処分のあつたことを知つた日から六個月、処分の日から一年を経ない間はこれを提起できる旨の規定があるが、同條第五項及び同法附則第三項によれば昭和二十二年三月一日前に制定された法律以外の法律に特別の定があればこれに從うことと定められて居り、前記自作農創設特別措置法第四十七條ノ二は昭和二十二年法律第二百四十一号を以て同年十二月二十六日公布即日施行せられた改正規定であるから右に所謂特別の定にあたるものであつて、行政事件訴訟特例法第五條第一項第三項の規定の適用を排除するものと解しなければならない。然るに原告が本件裁決のあつたことを告知せられたのは昭和二十三年四月中旬であること原告の自認するところであり、本訴提起の日が同年九月二十八日であることは前示の通りであるから本訴は自作農創設特別措置法第四十七條ノ二の出訴期間を徒過した不適法な訴として却下を免れない。

以上の次第であるから訴訟費用について民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(目録省略)

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